トラブルが起きたときに損をしないよう契約書には特約条項を入れることができます。ここではぜったいに入れときたい大切な特約条項をいくつか紹介します。
発信主義の特約
日本の法律では「意思表示」の効力が生じる時点は、原則として「到達主義」を採っています。
したがって、トラブルがおきて契約解除通知などをする際、通知が相手に届かなければ、契約解除したことにはなりません。
トラブルがおきたときというのはたいてい急を要するものですから、これで大変不便です。
例えば、アパートの賃貸契約で、借主が家賃を滞納して所在不明になることがよくありますが、そんなとき家主は解除できないことになってしまいます。
そこで、「本契約に関する甲の乙に対する意思表示は、乙が甲に事前に届け出ている住所地に発信すれば、その翌日に効力が生じるものとし、到達することを要しない」などといった《発信主義の特約条項》を契約書に入れておきます。
無催告解除の特約
相手が契約違反しているからといって、いきなり契約解除することはできません。まずは契約の履行を催告し、それでも履行されないときにはじめて契約解除できます。特に継続的取引関係にある場合は、催告から解除まで6ヶ月以上の猶予期間が必要です。
しかし、法律を悪用し、のらりくらりと催告がなされるまで契約違反を続ける者もいます。このようなときに備えて、契約書の中に、一定の事由については催告なしで契約解除できる旨の特約を入れます。《無催告解除の特約》これによって、相手に契約違反があったときに催告なく契約を解除できます。
期限の利益喪失条項
相手の資金状況が苦しいので、100万円を毎月10万円ずつ10回払いで支払うという覚書を交わした。しかし、それでも支払が遅れるのでこの際、残金を一括請求したい……
覚書をとったので一見安心のように思えますが、実はそうではありません。このような覚書を交わしてしまうと、支払期限が未到来の金額分についてはそれぞれの期限が来るまで支払わなくてもよいという「期限の利益」を債務者に与えたことになります。
ですから、1回の約束違反で残金を一括請求することはできなくなります。たとえば、3ヶ月滞納しているときは、このケースでは3回分、つまり30万円までしか請求できないことになり ます。
これでは法的手段を使って回収しようとする場合でも、すべての支払い期限が到来するのを待つか、そうでないなら支払い期限ごとに何回も訴訟や強制執行の手続きをしないといけなくなります。
相手の支払い能力が悪化しているときなどにこのような悠長な対応をしていれば、回収不能になってしまいます。
そこで、支払いを1回でも怠った場合は期限の利益を失い、残金を一括して返済しなければならないという特約を契約書に入れておきます。
そうすれば、分割払いの約束をしていても、相手が1回でも滞納したらその時点で残金を全額請求できるようになります。
損害賠償額の特約
契約違反があると損害賠償してもらうとはよく言いますが、実際に損害賠償請求するのは、それほど簡単な問題ではありません。
例えば、商品の引渡しの納期違反などの場合は、遅れにより受けた損害額を算定したり、それを立証したりしなければならず、実際それらを行うのは大変困難です。
また、金銭支払債務で遅延損害金を請求する場合は、民事取引では5%、商事取引では6%と決められており、それほど大きな額を請求できません。
これらの問題を解決するために契約書で、たとえば、「甲が納期に遅れたときは、甲は乙に対して1日○○円の違約金を支払う」、「乙が甲に対して代金の支払いを怠ったときは年20%の割合による遅延損害金を支払う」などといった損害賠償額の特約をしておきます。このような特約しておけば、契約違反されたときに、取り決め通りの損害賠償額を請求できます。
ただし、あまりに常識はずれな高額な取り決めは、公序良俗違反’(民法第90条)により無効とされるので注意が必要です。
裁判所の合意管轄の特約
いざ裁判をおこすことになったときに、どこの裁判所へ訴えるかという問題がありますが、どこで訴えてもよいわけではありません。
原則として被告の住所地を管轄する裁判所へ訴えることになっています。ということは、訴える相手が遠方の場合、労力やコストにおいて訴える側が圧倒的に不利になり、それだけで解決をあきらめてしまうことにもなりかねません。
とくに少額の紛争だと費用の方が高くつく可能性が高くなります。
しかし、こちらに有利な裁判所を管轄とする特約をしておけば、紛争になったときに相手が根をあげる形勢ができあがります。
最近では外国企業との取引も増えてきたので、どこの国の法律で、どこの国の裁判所で紛争を解決するのかを取り決めておくことも重要です。